”I’ll ride with you”
投稿日:2014年12月16日
シドニー市内の喫茶店で起こった立てこもり事件は、昨夜2時に終わりを迎えました。
店内で銃声が聞こえ、控えていた警官隊が中に入り、犯人が殺され、人質になっていた人々は解放されましたが、その場で命を奪われてしまった方が2名、負傷された方が4名ありました。
シドニーだけでなく世界を震撼させたこの事件、徐々にその内容が明らかにされつつあります。
店内の窓に掲げられたアラビア語の旗で、すわ、テロ!と,人々の恐怖は、「イスラム国家」と関連するイスラム教の過激派の仕業と想像が報道の中にも広がり、人々の不安がかき立てられたのですが、中にいた犯人との交渉が始まるにつれ、報道の加熱化が抑えられました。
それは、犯人像が途中から警察に掴めたことによるものと思われます。
ここに掲載するのは主に、NSW州のScipione (スキピオーネ)警察長官の発表とNSW州のBaird (ベアード)知事の発表内容と、それに対するニュース報道に基づいたものです。
17名の人々が人質になったこの事件は、大きな組織に関連したものではなく、個別に起こった事件であり、今後こういうことが起きないようにさらに万全を尽くすので、市民の通常の生活を変えて欲しくないと長官の冷静なスピーチの中に、それが強調されています。
The Sydney Morning Herald誌によると、銃を持って立てこもったMan Haron Monisという男は、すでに過去のいろいろな犯罪で州警察や裁判所によく知られた男であると報道されています。
2007年から2009年にアフガニスタンに派遣され遺骸として帰還した豪兵の家族にひどい手紙(彼自身はお悔やみの手紙だと主張していたようですが)を送り逮捕され、その際に、オーストラリアのアフガニスタン侵略の戦争は法的に無効であるという訴えを起こしました。しかしながら、彼の訴えは敗訴となり、それと同時に、12の事柄で彼の罪が問われることになりました。
その罪科を取り消すための裁判を起こしていたのですが、それにも敗訴し、300時間のコミュニティでの善行の仕事をすることが課せられました。それが、先週の金曜日のことです。
また、彼は、以前殺害された前妻の殺人幇助の罪や女性に対する何件もの暴行の罪に問われていて、保釈状態にあるところでした。
どういう動機で彼がこの事件を起こしたのかはわからないまま彼は死んでしまいましたが、この事件により、一般市民の犠牲を伴い、世界を震撼させ、イスラム教徒全般への要らぬ憎悪をさらにかき立て、イスラム教徒の人々がイスラム教であることだけで不安と恐怖に陥れられるような結果になったことは、返す返すも無念なことです。
これから、いろいろな報道や憶測が世界を駆け巡るのでしょうが、その中でも、これからの世界に希望をもたらす行為も見られました。
昨日、シドニーのイスラム教徒のリーダーたちは、何度もテレビで、「子どもたちをしっかりと抱きしめよ!」と呼びかけていました。その心中は察してあまりあるものです。
ある電車の駅で、この出来事のために、自らがイスラム教徒であることでどれだけの報復があるかを怖れたある女性がヒジャッブを取り去ったのを見たある男性が、’I’ll ride with you’ (一緒に電車に乗るね)と寄り添い、そして、世界に向けて、この差別に身を置くなと呼びかけ、それに対して、多くの人々が呼応してある動きを起こし始めていることです。
政治が力で「支配する」ことしか考えない世界情勢にある中、市民が政治、宗教、思想を越えてつながりを持とうとしていることは、それだけが、世界を救う道であることを政治に示せるだけの大きなうねりになることを願うばかりです。