留学中の交信
投稿日:2015年1月25日
留学中のお子さんと親御さんとの交信についてお話したいと思います。
過去20年余のいろいろな体験に基づいたこととしてご理解いただけますとありがたいです。
20数年前には、高校生が海外に留学するための方法は、フルブライトやそれに類似した奨学金で国または県を代表していくケース、ロータリーやライオンズのような国際組織内での交換、姉妹校での交換、そして、各国をつなぐ公私の交換留学制度が主なもので、あとは知人などの伝を通した個人的なものでした。
AFSといった大きな交換留学制度のところは、1年間一切連絡を取り合わないことが前提条件というプログラムもいくつか存在しました。
ICETのプログラムの前身になったのは、学芸館高校の姉妹校同士の交換留学制度だったのですが、当時は、1年とは言わないものの、最初の3ヶ月は連絡を取り合わないという約束をしてから日本を発ちました。
そのことに対する反応は、日本においても、また、受け入れ側のオーストラリアにおいてもまちまちでした。日本サイドでは、3ヶ月なんて残酷というものもあれば、3ヶ月なんてなまぬるい、1年にすべきという反応もありました。
受け入れサイドでは、そのような約束があること自体にあきれるホストもあれば、それも一理あるのだろうと納得されるホストもありました。すぐに電話をかけなさいと指示されるファミリーもあれば、日本から連絡があるまで待ちましょうというファミリーもありました。
様子をみながら必要に応じて、というのが、私たちが取ったスタンスでした。
実際にはどうだったかというと、当時から現在に至るまで、交信の頻度は、1年間まったく無いケースから日々毎日あるケースまで、ピンからキリまでです。
1年間交信が無かったというのは、親子の取り決めでそうしたという例がいくつかあります。また、極めて自立していて、もともと、会話は必要最小限、信頼しているから大丈夫というものもあれば、「さっぱり連絡が無いのでもっと連絡を入れるように言ってください」と親御さんが言ってこられるケースもありました。
当時は、インターネットなどありませんから、連絡が無ければ、心のつながり以外のつながりは、まったく断たれます。それでも、そのつもりで送り出したのだから、それを由とするという太っ腹な親御さんも数多くいらっしゃいました。
男子生徒にこのパターンが多かったです。
これと正反対が、日々連絡を取り合うというケースです。これが起こるようになったのは、携帯電話を持ち歩く時代に入ってからのことです。
現在は、ラインという便利なものがあり、交信は、いつでも自由にできます。
さて、ここでの議論は、どの方法が、あるいは、どれだけの頻度が、良い、悪い、ということではありません。
注目していただきたいこと、そして、理解していただきたいことは、
交信の内容
交信の頻度
によって、もたらされるものの結果や効果が違ってくる、ということです。
そして、それは、それぞれの覚悟のほどから生まれるものだということです。
日々、日本から連絡が入る場合には、次のようなことが起こります。
- 身はシドニー、心は日本という状態になります。
- 「自立」という観点から:8千キロも離れたところにみえる親御さんの指示を仰ぎ、8千キロ離れたところから、知らない土地の知らない状況に関するアドバイスが飛んできます。新しい環境に飛び込むことも、慣れることも、自分で考えて試行錯誤でやってみて成長していく機会は、大きな遅れを取ります。
- ホストファミリーとの関係:中には、毎夜、長時間日本のお母さんとラインでやり取りをしていた生徒もいます。その間は、自分の部屋に閉じこもっているわけですから、ホストと良い絆が築けるはずがありません。ホストの熱意はどんどんと薄れていきます。本人もそれを感じるので、ますます気持ちは日本に向いていきます。
- 何度も親御さんから連絡が入ってきて、それに応えないと、「連絡してきて」「なぜ、連絡してこないの」といったものが入るようになり、「大丈夫だから、連絡するまで待って」とか「毎日なんて応えられないから、数日に一度とか、週に1回にして欲しい」と子どもが頼んでも、聞き入れてもらえず、子どもが親御さんの要求に応えきれず、ほとほと困り果てていたケースもあります。
- また、日本からの連絡が入る度に、いろいろなニュースや家庭内でのできごとが伝えられ、子どもの気持ちは、完全に日本に飛んでしまうこともあります。(家庭内の人間関係の話しは、控えられることをお勧めします)
- オーストラリアの生活を思い切りエンジョイするという観点から:心が8千キロ離れたところにあって、身だけがどうやって楽しめるのでしょう。。
- 英語学習の観点から:頭は、日本語環境にあるのですから、学習が捗るはずがありません。
こんなケースもあります。これは、日本に1年間留学した豪生徒のケースです。ホームシックだということで、お父さんと娘が、毎日連絡を取り合いました。ちっとも日本になじみません。ホストファミリーも戸惑うばかり。そこで、お父さんに、電話連絡を断つことをお願いしました。それまでのいろいろなケースを説明し、彼女が日本の生活に飛び込むためには、それが必要、ということで。抵抗は、すごかったです。それでも、かけないということを承諾されました。
数日もしないうちに、ホームシックだという現象はなくなり、彼女は、全面的に日本の生活に飛び込み、あっという間に日本が、ホストファミリーが、そして、学校や友達が大好きになりました。
覚悟の問題だけなのです。
このお父さん、小さい頃から本当にかわいがってみえたのでしょうね、娘が自分のいないところで幸せになれるということが受け入れ難かったのです。でも、一旦覚悟ができたら、娘の幸せな様子をとても喜ばれていました。
自立への道は、おもしろいものです。
ここにあげた例は、極端な例かもしれませんが、稀なことではありません。
どういう内容で、どれだけ頻繁に連絡し合うかは、それぞれの親御さんとお子さんの関係の中で決められたらいいと思います。留学生活に支障が出てくれば、介入させていただくことがあるかもしれません。でも、基本的には、親子で決めていただくのがベストでしょう。留学の目的にあったものか、支障にならないか、元気を促進するものかということに意識を置き、惰性になってしまわないことが重要です。
どれだけ子離れ、親離れができているかということも関係しましょう、また、どれほどの覚悟が双方にあるかということも関係しましょう。
ひとつ確かなことは、自分でやってみるという生徒、できるだけやらせてみるという親御さんの気持ちが合致すると、オーストラリアの生活に飛び込むスピードはすごい早さで起こり、結果として成長も勢い付きます。