アフルエンザ

投稿日:2011年11月8日

 Emptiness – 「空虚」

 先回は、大きな達成を成し遂げた後の「虚無感」に触れました。

 今回のemptiness (空虚)は、何か大きな出来事を体験し、達成し、その後にやってくるものではなく、芥川龍之介の「ただぼんやりとした不安」のように、特に理由なく、毎日の生活の中でなにか漠然と感じる空虚感です。

 大人のいうことを聞いて、一生懸命勉強し、一生懸命生きているのに、なにか不安、なにか空虚、と感じる。そう感じる若者が増えているという記事や本をよく目にします。特に、先進国の中で。実際の社会の動きの中でも十二分にそれは感じられます。(若者だけでなく、大人にもその数は多く、幸せに感じられなかったり、うつの状態になってしまう人の数はうなぎのぼりです)

 「携帯を手から離すことができない。いつも誰かとつながっていないと不安。ベッドの中にまで携帯を持ち込む。24時間自分独りではいられない。こういう状態が若者の精神にどういう影響を及ぼすのか憂慮する」と、ニューヨークにあるThe masters Schoolの校長先生が、ある国際フォーラムの教員交流ディスカッションの場で述べられていました。

 アメリカ然り。オーストラリア然り。日本も然りです。

 希望に燃えているはずの若者の心が、そのような空虚で不安な気持ちで駆り立てられるのはなぜなのでしょうか。

 「Affluenza」という本があります。Affluence(富)と Influenza(インフルエンザ)をくっつけたOliver Jamesによる造語ですが、社会に潜む深刻な状況を表現しています。

 はしごでより高いところに登ることを目標とし、登れる人を羨み、右に倣えで自分もより高いところに行き着くことを自分に強い、親も期待する。その姿勢がまるでインフルエンザの菌のように敷衍している。その結果、うつ状態になり、不安になり、何かに依存しなくては生きていけないような状態が起こってくる。そうした子供の数は、他の先進諸国と比較すると英語圏の国々では2倍になる。そして、このウイルスは、他の国々にも確実に広がりつつある、という状態を表している言葉です。

 日本にも「アフルエンザ」は蔓延しつつあります。

 その原因はいろいろあるでしょう。

 テレビやコンピューターゲームだと言う人もいれば、親子の絆が切れているからだという人もいます。情報の氾濫のせいだという人もいれば、現在の消費社会が原因だという人もいます。

 その源を質せば産業革命だとする意見があります。産業革命によって、人間のものの考え方、重視するものが確実に変わり、富を生み出す生産と結果が最重要なものとなりました。その結果として、現代社会のビジネスの世界は、徹底して論理性、合理性、効率性が重んじられます。実社会で活 躍するためには、いやおうなくこの世界に連れ込まれます。 

 現在起こっているヨーロッパの金融危機、世界の金融危機は、産業革命以来、何世紀かにわたって築かれてきた経済と金融の仕組みや考え方が21世紀の世界で改めて問われているものだと私は思います。G20という世界の最大のパワーと知恵が集まっているはずの場でも、その仕組みを維持する以外の解決策は出てきません。それは、世界中がその仕組みの中にすっぽりと入ってしまっているために、そこから抜け出ること自体が考えられないことだからでしょう。

 学校や社会も、同じように、仕組みの中に取り込まれてしまっています。だから、その仕組みを無視した教育をすることはできません。それをしたら、子供たちの将来の選択肢を狭める結果となるかもしれない危険を含むからです。

 では、何が必要なのか。

 仕組みを理解した上で、その仕組みを上手に利用しながら、でも、そこに無意識で巻き込まれてしまわない意識を持つことです。

 そのために必要なのが、「目的意識」と人生に向かう「姿勢」なのだと、私は思います。

 「数値ではない。目的が大事。」と私がしつこく言い続けるのは、この巨大な産業社会の中で、そして、更に上のみを目指す志向が重んじられる社会で、各国がグローバルの強い渦の中に巻き込まれていく中で、あまりにも多様化している価値観の中で、氾濫する情報の中で、自分を見失わないためです。

 見失わないだけでなく、このめまぐるしく変わり行く中で、不安を抱くのではなく、それを上手に利用できる力を付けることです。

 その力は、まさしく、「自分を知る」ということと「その自分に自信を持つ」ことです。

 自分がどんな人間であり、どんな才能を持ち、どんなことに長けていて、どんなことに関心があるのか、情熱を感じるものは何なのか、社会のどの位置で社会と関連し貢献するのか、社会から何をもらって何をお返しするのか、どんな分野に自分の創造性やひらめきが広がるのか・・・ 

 自分を支えている軸は何なのか、自分を幸せにするものは何なのか、何をしているときに自分は輝いているのか、どんな環境で自分は活き活きするのか、どんな夢を抱いているのか、実現するにはどうすればいいのか、何を学習すればいいのか・・・

 そんなことを知って始めて、学習が楽しくなり、自分に自信が出てきます。

 高校生のときにその意識を持つようになったら、そして、それを理解し、包み、その生き方を肯定するご両親の後ろ盾があれば、あとは、何を選んでも成功します。選んだ先に自分を燃やすものがあり、吸収したいものを掴み取っていけるからです。

 なぜなら、それが、彼の、彼女の、「自分が創る自分の人生」になるからです。

 

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