Emotions

投稿日:2011年2月13日

 留学は、感情と向き合う旅です。発見でもあり、たたかいでもあります。

 今まで体験したことがないことをたくさん体験します。新しいことを体験するたびに、今まで、感じたこともない感情の存在に気が付くことが多々あります。自分には、こんな面もあったんだ、と。また、複雑な感情に陥った際に、その感情とどう向き合えばいいのか、どう処理すればいいのか、自分が難しい立場に置かれることもしばしばでしょう。

 1月22日、23日に到着し、すでに3週間が経ちました。「もう、3週間も経っちゃった?!」 と感じる生徒もいれば、「えっ、まだ、3週間!」と感じている生徒もいます。いずれにせよ、この3週間に、それまでの16年間で感じたことの無い感情、感覚を様々に感じていることは間違いないでしょう。

 それは、新鮮な喜び、踊り出したいような自由、発見の連続、新天地に立つ無限の可能性に向かう勇士の武者震いである場合もあれば、手足をもぎ取られたようなもどかしさ、自分が自由に動けないじれったさ、言語障害に陥ったような苛立ち、自分を表現できないために自分が愚かにみえてしまう悔しさと自己憐憫、周りで起っていることが十分に理解できないために疑心暗鬼でしか物を見られない、といったことで体も心もがんじがらめになり、麻痺状態に陥っている場合もありましょう。

 そうした個々に違う反応は、それぞれの持つ性格にもよります。16年間の人生でそれぞれが体験してきたことの種類や多少にもよります。ものの見方、考え方、捉え方の違いにもよります。

 でも、同じなのは、みな、今まで体験してきたことのないことを体験している、ということです。両親、家族から離れ、まったく異質の文化で、違う言語の中で、違う習慣に囲まれ、今まで会ったことのない人々と暮らす、ということは皆共通の体験です。

 その新しい体験を、どこでどのように感じるかは、一人ひとり皆違います。違っていいのです。違って、当たり前です。みな、違う個性を持っているわけですから。グループですので、「傾向」はありますが、だからといって、どれが正しい、どれが間違い、というのは、まったくありません。

 ホームシックを例としましょう。最初の夜に涙を流す生徒。1週間経ってから日本の家族を思ってたまらない気持ちになる生徒。3ヶ月も経ってから、ふとした折に、ホームシックに襲われる生徒。1年間、まったく感じることがない生徒。みな、マチマチです。過去には、1ヶ月ホームシックで泣き続けた生徒もいます。その生徒は、12月になったら、日本に帰りたくないと毎日泣き続けました。

 生徒が通るこの過程は、私は、赤ちゃんの誕生の次に人生で大きなことだと思います。

 赤ちゃんは生まれた瞬間に、息を吸い、おっばいを飲むことを学習し、そして、短期間で、お母さんに、自分の状態を知らせる「泣き方」を身に付けます。この対応力は、まさに生きる力です。ただただ見事というしかありません。

 留学に来る生徒たちは、この赤ちゃんと同じ対応を強いられます。知らない環境で、自分を活かす対応を否応が無しに強いられます。

 赤ちゃんと違うのは、16年間積み上げてきた生活能力と記憶があることです。それは、突然ではなく、目に見えないほどの変化のスピードで徐々に積み上げられてきたものです。だから、自分が何を備えているかの意識はあまりありません。でも、厳然と存在するものです。

 実は、これが、バネであると同時に、ブレーキにもなります。

 上手に新しい環境に対応すれば、それが次の挑戦の弾みとなり、糧となります。

 でも、オーストラリアは日本とは極めて違う文化を持つ国です。学習においても、ホストの生活においても、日本で慣れ親しんでいるやり方や日本で機能していたことをそのままあてはめようとすると、上手にまわらないことがたくさんあります。そうなると、持っている豊かな知識や体験が、逆に、前に進むことを阻止してしまうことになりかねません。

 上手に行かない場合には、体験不足ということもあるかもしれません。あまりにも大事に庇護されていて、「場」を体験していないために、それに対処する術を知らない、という場合もあります。

 また、生徒たちには、「期待」というものがあります。「英語を自由に話している」「Aussieの友だちに囲まれている」「授業が全部わかって楽しんでいる」という淡い想像です。それが現実の中で無残に砕かれると、今度は、一挙に大きな不安と焦りに変わります。「英語がわからない」「授業がわからない」だけでは済まず、「だから、英語が上手になる可能性はない」と極端な悲観に陥ってしまいます。

 「わからなくて当たり前、だから、留学してきたのでしょう。数ヶ月も経てば、十分にわかるようになるから大丈夫」と言われ、元気を取り戻すような場面も多々あります。

 「1年で9年分の成長をする」と言われる所以のひとつは、これなのかもしれません。いろいろな感情の襞を自分の中に取り入れ、その感情と向き合う術、環境に臨機に対応していく術、を備えていくこの過程が、大きな成長を促すのでしょう。

 

 

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