危機管理

投稿日:2011年2月26日

   危機管理という言葉がよく使われます。

 文字通り、危険を予測し、回避する対策や方法を設け、そして、いざという場合には、被害を最少に抑えるための周到な準備があり、対策があり、システムがあり、強力なリードがあることです。

過去数か月頻繁に起きた大規模な災害に対する国や都市の自治体の対処の仕方を見ていると、オーストラリアとNZは、政府や都市の危機管理体制を高いレベルで整えている印象を受けます。

 特に目立つのは、そこには、強く逞しいリーダーたちがいるということです。

 次から次と命令、指令を飛ばしていきます。国民や市民に、今何が起きているかを丁寧に説明し、これから何が予想されるかを明確に述べ、それに備えて、こうしたことをせよ、という的確なアドバイスを随時与えていきます。

 人命にかかわることであれば、当然迷いがあるはずです。でも、その迷いを感じさせないほどに、バンバンと事を運んでいきます。

 たとえば、こんな例がありました。Queenslandに時速280キロという超巨大なサイクローンが近づいてきているときのことです。知事のAnna Bligh(ブライ)氏は、「次の2日間が避難を敢行する時」、「まずは命の安全を確保」することを何度も訴えました。そして、サイクローンの上陸が間近に迫ってきた際に、「避難の時間は終わった。これ以降は、Don’t move (そこから動くな)!! 今、いるところで自分の命と家を守れ」という指示をだしました。

 政府は情報を出した。それをどう使うか、使わないと判断すればその結果がどうなろうと、それは自己の選択と責任なのだ、ということなのでしょう。

時速300キロ近い超、超大型のサイクローンで、全壊した町もあるのに、死者は一人も出ませんでした。たった一人亡くなったのは、自家発電の装置を扱う過程で起こったものです。知事の指令は実に効果的だったわけです。

 その後に続いた連邦政府からの提案もすごいものでした。「国にはお金が無い。Queenslandを復興させるためには、国民からの援助が必要。特別税を課し」、ある程度の収入を得ている人から集めるというのです。「もうたくさん寄付をした」「別のことに使う予算をまわせ」と反対はありましたが、その政府案は実質審議に入り、じきに採決に入ります。

 メディアも24時間人々の状況を少しでも助けるための体制を敷き、政府とメディアが一体になっている感があります。

 Christ Churchの地震発生後の危機に対応する過程でも、関心を引かれたことがあります。

 ’Rescue’という言葉と’Recovery’という言葉の使い分けです。そのまま訳せば、「救助・救援」と「復興、回復、回収、立て直し」です。

 地震が発生した直後の22日と23日は、rescueという言葉が頻繁に使われていました。でも、24日には、行方不明者の捜索、瓦礫の下に取り残されているだろう人々の救助を続ける一方で、すでに、recoveryという言葉が現場の人々のメッセージの中にも、そして、メディアの解説の中に頻繁に出てくるようになりました。

 それは、災害のあった人々、救助の携わる人々の心理のシフトを促すものであるように感じました。

 ショックの直後は、被災者は衝撃のために放心状態に陥るので、まずは、安全への誘導が絶対優先となります。それが確保された後は、生命を維持し、生活に日常性を取り戻すことに視点が移っていきます。そこでは、飲み水や食料の確保すらままならず、悪夢のような現実に直面した絶望感、悲しみ、怒り、フラストレーションなど、複雑な感情に駆られると同時に、将来への大きな不安に包まれます。

リーダーたちは、そんな住民たちの心理を十分に理解した上で、「物資はじきに届く。しばらく我慢して欲しい」、「工夫せよ」「互いに助け合うことを考えよ」「頼るのではなく自力でできることをすることが大事」と、様々なメッセージを送り届けています。

 気持ちを奮い立たせるためのメッセージのように受け止められます。

 人々を支援するための援助隊がオーストラリア、日本、中国など、次々と到着していることが報道され、物資の輸送も確保され、自分たちは、「復興」に向けて動いているのだ、被害を嘆いている時間はない、町を立て直さなければ、という意識が人々の間に意図的に吹き込まれていくのが見て取れます。

 そんな中で、日本から急遽駆け付けたものの、愛する者が生存しているかもしれない現場に行く許可が得られないまま、日本のご家族の方々は立ち往生してしまっておられます。CTVビルのある中心街は、救援隊と警察しか入れず、各国から集まったメディアも締め出され、厳しい管制下で政府調達のバスによる観察と撮影が許されただけです。

    誰のせいでもない自然災害。でも、危機管理を問われるのは政府です。国内外で被災者やご家族にどういう支援をするのか、日本政府の危機管理の意識の熟度がここでも試されているように思えます。

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