Mary Poppins
投稿日:2011年5月16日
Tsubasa君からの寄稿です。
「今週はとても寒い一週間でした。5月にこれほどの寒さになったのはオーストラリアで50年ぶりらしいです。毎朝、布団から抜け出せないです。
先週にGRADE SPORTのトライアウトがあって、今週から練習がありました。練習は水曜日のSPORTの時間にあります。サッカーやバスケットボールやバレーボールなど多くのスポーツがあって、生徒達は自分たちで選んだスポーツに参加します。日本の部活動みたいな感じでとても楽しく、新しい友達もたくさんできました。
最近のICETの教室では募金活動の続きでメッセージを綺麗にまとめたり、千羽鶴の続きをやったり、いろいろ忙しい日が続いています。」
シドニーもスワンヒルも本当に寒くなり、キャンベラにはすでに雪が舞ったというニュースもありました。夏の暑さが感じられないまま夏が過ぎてしまったような感じがありましたが、今年は、冷え込みの激しい冬になりそうです。シドニーでも珍しいことです。
シドニーでは、1日の中に四季がある、とよく言われます。太陽が出ている間は暑く、太陽が姿を隠すと急激に寒くなるのです。着る物で調整して、風邪をひかないよう、気をつけましょう。
話は変わりますが、小さな頃に読んだ童話や寓話を大人になって読み直すとまったく違うメッセージをそこから汲み取ることが多々あります。
皆さんの中にも、ディズニー制作の「メリー・ポピンズ」をご覧になった方が多いのではないかと思います。私が初めて接した時は、小さな頃ではなく大の大人だったのですが、子供が夢中になって観ているのを横目で見ていたくらいで、底に流れるメッセージを当時は何も理解していなかったことを今になって悟る機会がありました。
イギリスの中流から上流階級の家庭では、ナニーと呼ばれる子供の教育係り(お守り、礼儀作法のしつけ、学習の助け)を付けることが慣習になっています。今でも、行われていて、オーストラリアから応募するケースがあることを時々耳にします。そこで起った事故が大きなニュースになったこともあります。
メリー・ポピンズは、バンクス家に雇用されたナニーと子供たちの楽しいやりとりの物語です。
当時、アニメで私が理解していたのは、ナニーが手品や魔術を使って、子供たちの想像力を駆り立て、夢をふくらませ、そして、いい子になるようにした、というものでした。実に単純なメッセージでした。
アニメがミュージカルになり、今、シドニーで上演されています。そこから伝わるメッセージは、まったく別のものでした。
仕事で忙しいお父さん。バンクス(銀行家)という名前の通り、銀行の役員。今の仕事の枠にはまり、銀行をより富ませることにしか頭がありません。家族のことは妻と使用人に任せきり。子供の面倒はナニーに任せきり。自分も怖いナニーの手で育ち、その恐怖体験は脳裏を離れていません。家族との絆はほとんどありません。
夫の理解を得られないまま、でも、夫のことを愛し、心配し、その一方で、わがままな子供たちに手を焼くお母さん。
姉と弟の二人の子供たち。裕福な環境に育ち、他人への共感も思いやりもなく、自分たちの主張を通したいだけ。
ナニーとしてきたメリー・ポピンズは、子供たちの想像力を使って、いろいろな場面を創り出します。子供たちを表に連れ出し、社会のいろいろな層の人々と触れさせます。貧しい格好、仕事で汚い作業着を着ている人々が実は、とても温かな心を持っていることに子供たちが徐々に目覚めていきます。そして、自分たちのわがままさを徐々に捨てていくのです。
最初は、人々を搾取しても銀行を富ませようとしていたお父さんが、小さな頃に抱いていた夢を思い出し、銀行ではなく人々を豊かにさせるという発想の転換をします。それが、実は、銀行をも富ませる結果となるのですが、小さな頃の自分、優しい自分、人々のことを思いやる自分に戻る決心をします。そして、失われていた家族との絆を取り戻します。仕事の前に、まず、家庭ありき、と。
社会の格差、人間の心の温かさ、共感と絆などが、全編に流れるテーマでした。
もともとは、オーストラリア生まれのイギリス人、Pamela Lyndon Traversが書いた物語で、全部で7冊になるそうです。アニメにも、ミュージカルのプロダクションにも、かなり抵抗を示していたという記事があるので、ミュージカルが原本の意図するところではないのかもしれませんが、それは、原本を読んでみないとわからないところです。読んでみたくなりました。
もともと英国は、戦前の日本同様、厳然とした階層格差がある国ですが、最初のメリー・ポピンズが発行されたという60年代のイギリスは、富裕層が増え、ハングリー精神がなく、親に依存し、大人になりきれない若者たちを養える家族が増大していた時代です。
NEET(ニート)という言葉の発祥源ですので、それが社会現象までになっていたことを示すものでしょう。同時に、社会の中で押しつぶされていた層の人々もたくさんいます。
何か、震災前の今の日本に重ねてしまうところ大です。
痛烈な社会批判であるのに、無限の要求しかしない子供たちに夢を抱かせ、人々を大事にし絆を感じることで生きがいを持たせる、でも、それには、大人がまずそれを実現することが大事であることを、こんな楽しい魔法の世界で気付かせることができるなんて、この作者の人間に対する深い憂いと洞察と優しさと想像力にひれ伏したい思いです。
生徒たちには、ミュージカルやオペラや演奏会など、私自身が鑑賞するものをあまり勧めることはないのですが、このプロダクションは、子供たちの心に伝わるものがたくさんあるのではないかと思い、見に行くことを勧めようと思っています。もし、お金が要るというリクエストがありました場合には、どうぞ、そういう理由ですので、ご容赦ください。
Supercalifragilisticexpialidocious!