体験の重み
投稿日:2011年6月15日
1年間の留学生活の中では、いろいろなことを体験します。
時には、ホストシスターの結婚式に招待されたり、時には、ホストマムに赤ちゃんが生まれたり、また時には、家族のメンバーの死に直面することもあります。いずれも、人生の大きなできごとです。お世話になっているファミリーの「人生」と生徒たちの人生が重なって、いろいろな模様のタペストリーを織る出す瞬間です。
ホストのお家の方にご不幸があるような場合には、生徒がそこにそのままお世話になるかならないか、とても繊細な対応を迫られます。過去においては(それほど例があるわけではありませんが)、生徒がいないほうがいいと申し出られたホストは一軒もありませんでした。生徒の好きなようにしてもらっていい、という思いをみなさん共通に持っておられます。
生徒が別のお家に行きたいというケースも今までありません。
「生徒を置いておくべきではない」という意見もあります。それは、こんなに若い時期に「死」と直面させるべきではないという考え方からきています。留学生は、オーストラリアに勉学に来たのであって、そして、楽しい体験をするために来たのであるから、そういう体験は避けるべきである、それも、死が突然ではなく、事前にわかっている場合には、なおさらのこと、という。
「ホストに家族だけの時間をあげるべきだ」という意見もあります。家族だけとなると、留学生は、家族ではなかったの、ということになるのですが、留学生を受けてくださるようなお家は、もともと、家族、家族でないというような考え方、感じ方を持っておられないように見受けられます。それが、家族、家族でないというような壁ができてくるのは、一緒の生活が始まってから心の交流が日常生活の中で上手にいかない場合なのではないかと思います。
事前に、大きな変化が予測される状況においては、生徒とホストファミリーの気持ちを最優先することが、私は大事だと思っています。これから通る道、家族の感情の変化、家族のひとりひとりの人間関係の変化、死に至るまでの様々なそれまでとは違う状況が起る可能性について生徒と語り、対処方法を考え、その中で、自分がやっていけるかどうか確認し、さらに、生徒が大丈夫であるかどうかを日々モニターしていく必要があります。そして、ホストファミリーも、その過程の中でも、生徒へのケアが充分にでき、そして、家族として、生徒をしっかりと受け止めていてくださる心の用意がないと可能ではありません。
生徒は、自分がお世話になる、という感覚であれば、そこに留まるべきではなく、むしろ、家族とすべてを共有し、どんなお手伝いでもする覚悟が要ります。そうでないと、家族の一員にはなれません。
生徒とファミリーの心と日常生活が同体でないと、とても居心地の悪い空間になってしまうだけでなく、人の死によって残る人々にもたらされる最高の贈り物を受け損ねてしまうことになってしまいます。
最高の贈り物というのは、人間の生きる意味を考えること、人間の生の価値を考えること、生きている人々とのよりよい関係を可能にすること、人間にとって本当に価値のあることや意味のあることが何であるかを実感すること、自分はどう生きたらよいかを考えること、などです。
生徒とホストファミリーの双方から一緒に過ごしたという希望があれば、私は、そこを避けて通る方法よりも、人生の大きな体験として向き合うことを前提に、その過程において、生徒の感情のどのような変化もサポートできる体制を整えることで支援していきたいと思います。
まさにその状況が今、エリナさんに起きているのですが、彼女から、そのことについての寄稿がありました。
以下、エリナさんからの寄稿です。
「私のホストFatherのお兄さんのDavidについて話します。
Davidと一緒に暮らしています。だからたった半年でも沢山思い出があります。
Davidはもう長くは生きられません。Davidの命が後少しだと聞かされた時、私は泣いてしまいました。半年の間の私の思い出の中に、Davidが沢山居るからだとおもいます。Davidは、私がオーストラリアに来た時にすでに病気がちだったので、Davidは毎日、ずーっと家にいました。
金曜日の学校が終わって帰ると、Davidは”Happy Friday”と明るく私を迎えてくれたり、とても楽しそうにすばらしいバンドのコレクションを見せてくれたり、一緒にDVDをみたり、いつも病気とは思わせないくらい元気に私に話しかけてくれました。
そんなDavidが私は大好きです。昨日、先生達からのアドバイスもあり、忙しいホストの変わりにDinnerを作りました。最近ではずーっとベッドで寝たきりのDavidも残さず全部食べてくれたのがとっても嬉しかったです。たくさんの思い出をくれたDavidに感謝したいです。
ちなみに、今日はハンバーグを作ります。」 by Erina