アメリカとオーストラリア
投稿日:2011年11月17日
アメリカは巨大、そして、恐ろしい。
オバマ大統領の訪豪に関して受けた印象です。
南のこの地では誰も見たこともなければ想像もつかない規模の警備の中、Air Force 1の飛行機がキャンベラに降り立ちました。過去2度訪問の話しが流れ、3度目にして成ったものです。
2005年あたりでしたか、当時の大統領ブッシュ・ジュニアの訪豪の際には、ハーバーブリッジが交通止めになり、市内の交通も数時間止められたことにびっくりしたシドニー市民でしたが、今回のキャンベラでは、宿泊先のハイアット・ホテルから国会議事堂までの間は、全面通行止め、関係者以外の一般人はすべて立ち退きになり、警備員で固められたということ。
豪の地にわずか26時間の滞在のうち、最初の日が首都キャンベラ、そして、2日目がダーウィンということで、その日程を不思議に思っていました。
そして、突然に、ギラード首相が、「インドにウラニウムを売ることは、オーストラリアの恩恵となる」と声明を出しました。
インドは、核兵器不拡散条約(NPT)の批准国ではありません。オーストラリアは、ウラニウムが豊富です。でも、労働党は、インドには、売るべきではないという立場をとってきました。ハワード前首相も、インドには絶対に売らないという方針をブッシュ・ジュニア大統領の訪問で転換しました。
昨夜は、議事堂で数百人参加のディナー・パーティが開催され、その前と最中のスピーチにおいて、米豪の60年にわたる「世界で最高の友だち」「世界で最強の関係」「同じ世界観を持つ唯一の国どうし」が強調され、これから、さらに軍事同盟を強めていくという声明が出されました。
ノーザン・テリトリー(準州)にはベルギーと同じくらいの面積の軍事訓練場があり、ダーウィンは豪の海軍訓練の中心地ということ。そして、そこに来年度から250人のアメリカの海軍と空軍の兵隊を共同訓練のために派遣し、その数を今後5年の間に10倍に増やしていくというものです。
いともなごやかな雰囲気の中で、こんな話が既成事実として流されていきます。
ダーウィン訪問もインドへのウラニウムも、これで謎が解けました。中国を包囲する軍事政策の一部であることが。
「中国が経済的に発展するのは、大いに結構。互恵関係を大切にすべき。でも、中国は、国際社会での責任を持ち、ルールを守るべき」とあえて中国を刺激するような発言までオバマ大統領から出ました。
オーストラリアは英国連邦下にあり、元首はエリザベス女王です。イギリスが戦争に行くところは、オーストラリアの兵が借り出されます。第一次大戦では、オスマン帝国を相手にトルコのガリポリで1万人以上の兵を失っています。日本では、ダーダネルス作戦という名で知られています。
その傷は、未だにオーストラリア人の心の深いところに残っています。
そして、第二次大戦、ベトナム戦争など、イギリスやアメリカが関連する戦争にオーストラリアは派兵してきています。そして、国を二分したのがイラク戦争。アフガニスタンは現在進行中であり、先日も、豪兵が自分たちが訓練したアフガニスタンの兵士に発砲されて3名亡くなったばかりで、みんながピリピリしているところです。
「アフガニスタンがテロリストの温床にならないためには、派兵が必要」と必死に国民に訴えている中、中国への「見えない、でも、予想されるかもしれない」恐怖に備えて軍事訓練を強めていくというこの発表は、普段、どんな場合にも動揺を見せないギラード首相の声が震え、真っ青な顔でこの発表を行ったことは、これが未来にいかほどの意味を持つものであるかを十分予見しているということなのかもしれません。
豪と中国は極めて良い互恵関係を保ってきています。水面下では、まったく別のことが行われる体制がこうして作られていくのだという過程を見るのは、極めて複雑な想いにとらわれます。歴史というのは、こうして作られていくものなのだ・・・・ アメリカとの友好、敵対関係というものも、こんなふうに成り立っていくのだ・・・・
イランはダメ、インドはいい、一国でも、施政者により大きく変わるアメリカの外交の仕方をもろに目撃する瞬間に思えました。
TPPに関しても、「中国を歓迎しないわけではない。しかし、入るのであれば、高い効率で国の貿易を開く用意で臨むべき」といった主旨の発言もありました。
TPPで二分されている日本。同じようなことを言われています。世界の流れの中に巻き込まれないで一国が存在できる時代ではないだけに、国益を大事にとしながらも、その立場をどれだけ主張できるかは、「国益」なるものが何なのかによっても異なってくるのでしょう。施政者が抱える課題は、途方もなく大きなものです。
経済的な面での発言だったのですが、「アメリカは、太平洋地域にこれから力を注いでいく」という言葉がどういう意味を持つのか、正直なところ不気味でもあります。
昨夜のディナー・パーティでもうひとつ印象に残ったのは、アメリカも豪も、リーダーのスピーチがうまい、ということです。これは、常日頃感じていることですが、昨夜は、改めて、それを感じました。
紙に書いたものしか読めない、そして、当たり障りのないことしか言えない日本のリーダーたちと違い、聞き惚れる話をします。ビジョンあり、ジョークあり、逸話あり、言葉の二面性を上手に使った意味深なメッセージありと、目を見て、聴衆の反応を見ながら、語りかけます。
文化や国民性ということもあるでしょうが、小さな頃からの教育の場における訓練の違いなのだろうと思います。