柔軟な教育制度

投稿日:2010年11月16日

 小学校の5年生が、2ヵ月半、毎週1日学校から出て、ハイスクール(中高学校)に通学する。

 こんなことが可能なのです、オーストラリアでは。

 デイビッドソン・ハイスクールは、7年生から12年生までの男女共学の学校です。このキャンパスに、時々、まだとても幼い感じのする10歳くらいのかわいい子供たちが混じることがあります。これらの子供たちは、デイビッドソン・ハイの周辺にある小学校の5年生。毎週木曜日に、自分の学校に行く代わりに、ハイスクールに来るのです。これを10週間続けます。前半、後半と、二度にわたって、希望し選ばれた生徒たち25人が参加します。

 そのうちの半分以上がデイビッドソンに入学してくるということですので、デイビッドソンにとっては、将来の良い生徒の確保につながります。でも、目的は、青田刈りではありません。

 小学校が6年、ハイスクールが6年というのが通常の教育制度ですが、小学校の環境からハイスクールの環境があまりにもかけ離れているために、多くの小学生がハイスクールに入学してから慣れるまでに長い時間を要します。その環境に早い時期に触れさせることで、心理的な準備をすることが目的のひとつです。

 10歳、11歳という頭脳が極めて柔軟に時期に、ハイスクールで必要とされる能力、例えば、多角的なものの見方や考え方、問題解決への創意工夫、斬新的・創造的な創意工夫、未知への挑戦と探求といった知的な関心を早期に養うための過程を提供することが本来の目的です。エリート教育と言ってもいいのでしょう。

 ハイスクールの中の学科部門が各週の学習活動の企画を担当します。数学科なら、生活の中で数字を使ったおもしろい例をたくさん実験させたり、数の魔術というか数字の組み合わせでどんなおもしろいことができるかといったことを通して、数学の楽しさを子供たちに伝えていきます。

 ハイスクールの生徒たちにとっては、準備を通じ、また、当日小学生の世話をし指導することで、リーダーシップ性を養うよい機会です。それも目的のひとつです。

 ICETの日本人留学生たちも、年に二度、5年生の先生たちになって、日本の文化を紹介し、違う文化に対する関心を持たせ、そして、日本のことを知ってもらう機会を持ちます。

 こうした効果がいったいどれほどのものか、ということを示す良い例があります。

 デイビッドソン・ハイでは、毎年、日本に行きたい生徒のために奨学金が提供されます。私は、選考委員のパネラーになることが多いのですが、数年前、私のそれまでの認識を塗り替えるようなことがありました。

 その年はなぜか競争が激しく、12人の候補がありました。驚いたのは、そのうち8人、三分の2の生徒が、小学校の時に、ICETの生徒たちとの接触があり、そして、そのことが、その後の彼らの選択に大いに影響したというのです。

 「5年生の時に日本人の高校生が楽しいことを見せてくれて、日本に興味を持った」「デイビッドソンには日本人の高校生がたくさんいる。だから、日本が近くなると思ってこの学校に来た」「デイビッドソンには日本に行く奨学金制度があると知っていたから来た」「日本人の高校生に会って、日本語を習ってみたいと思った」というようなことを言うのです。私が彼らに会ったのは、彼らがすでに10年生(高校1年生)になっている段階でしたが、みな、日本を学習し、日本に大いなる関心を抱いていました。

 それほどに、体験の種類によっては、大きなインパクトを及ぼすものなのだということを深く認識することになったできごとでした。

 そうした柔軟な心と頭脳を持つ年齢の子供たちが、10週間、ハイスクールの生活を現場で体験をする機会は、彼らの将来にどれほどの大きなメリットをもたらすことか!たったひとつの事例がこれだけのことを物語るのですから、その恩恵は、計り知れないものです。

 そういうことが仮にわかっても、組織を動かして、制度を変えて実践することはなかなかできません。それをいとも簡単にやりのけてしまうというのが、この国のすごいところです。 

 そういう制度の柔軟性は、他にも見られます。ハイスクールは、TAFEという専門学校と組んだプログラムを提供しています。履修が校外においても自由にできるよう、学校の時間割もそれにあわせて、11年生、12年生には毎週火曜日には学校での授業が組まれていません。生徒は、学校に来なくていいのです。その分は他の4日間にしわ寄せされるので、デイビッドソン・ハイの場合には、ゼロ時間といって、朝7時半から始まる授業が組まれています。その辺は、とても柔軟です。

 Hospitalityというのは、そのひとつの教科です。Hospitalityは、別の学校に行く必要がないのですが、上級コースになれば、高校にいる間に、TAFEでのコースを履修することも可能です。200時間の実践コースで、自分の包丁セットを持ち、帽子やエプロンなども自分のものを揃え、授業で練習を積み、有名なレストランで1週間体験させてもらい、学校では行事がある毎に、hospitalityを履修している生徒たちが自分たちが作ったものを提供し、活躍します。

 11月11日に上記の5年生の卒業式が行われました。出席した保護者と子どもたちは、hospitailityの生徒たちが作ったフィンガー・フードをご馳走になり、式に臨みました。たくさんの人々の前で、二人ずつ、自分たちの体験を通して学んだこと、感じたことについてスピーチをしました。5年生といえども、すばらしいスピーチをする子供が多く、訓練、機会の大切さを改めて感じたところです。

 ICETの生徒たちへの感謝の言葉もありました。出席していたICETの生徒たちも、小学生の言葉を嬉しく受け止めたことでしょう。

 コージー校長先生から卒業証書をいただいた子供たちの表情は、誇りに満ちたものでした。この子供たちの間からも、日本に関心を抱き、日本となんらかの関係を持つようになる子供たちが出てくるのでしょう。

 なによりも、この少年、少女たちが、日本やアジア、その他自分と違う文化を自然に受け止め、違いを尊重する心を育てていって欲しいと願います。

 ICETの生徒たちが、そういう土台の部分で貢献していることはあまり知られていませんが、彼らの貢献に大きな拍手を送ります。

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