思いがけない旅立ち
投稿日:2012年2月25日
一人の若い女性が旅立ちました。
日本で大学が終わり、就職が決まり、これから社会に出ようとしている今・・・・
留学時代、物静かで憂いを湛えた視線が印象的でした。
文字を書くと、彼女の深く流れる豊かな感情がほとばしり出て、幾重にも錯綜する想いが重厚なタペストリーのように織り込まれ、そこには、彼女のすばらしい才能がキラキラと光っていました。
ホストマムと一緒にブリタニカの辞典を読むことを楽しみ、ジャーナリストになることが希望でした。
世の中の矛盾や醜さを心全体で感じ取り、その重さと苦しさを支えきれなくなったのでしょうか。
理想と現実の狭間で、夢を見ることができなくなってしまったのでしょうか。
あまりに鋭く繊細な彼女の感性が、そして、その特別な才能ゆえに、居場所が無いと感じてしまったのでしょうか。
彼女が選択したのは、地上から去ることでした。彼女を深く愛する人々を置いて・・・
なぜ、という永遠の問いを残して・・・・
「死」という形で、どんなメッセージを社会に伝えたかったのでしょう? それは、残された人々の心の中でこれから徐々に見えてくることなのかもしれません。
人はみな、そこに向かって生きているのですが、実際に身近で「死」に直面した時、私たちの心は、大きく揺さぶられます。結びつきが深ければ深いほど、その衝撃は大きく、自分の存在そのものまでを危ういものとしてしまうことさえあります。
直面したものが意図的な選択であった場合には、残された人々は、精神的な呪縛を背負うことになることもあるでしょう。
大事な人を失った悲しみだけでも重過ぎるのに、なぜ救えなかったのかという罪悪感や絶望感、なぜもっと強くなれなかったのかという失望感、置いていかれてしまったことへの怒り、愛する人に失望や怒りを覚える自分へのさらなる罪悪感、自分が生きている意味の喪失感、様々な後悔、思い出のページがもたらす様々な感情の波、幸せを夢見る未来像、そうしたすべての感情が場所を変え、時間を変え、衝撃度を変えて襲ってきます。
それが避けられないものであるのなら、それをどう受け止め、どうかわし、どう対処するのか・・・
残った人が苦しみ続けないためには、そして、永遠の謎を追い続けることにならないためには、それが、彼女が彼女自身のために選択したことであることを、まずは、受け止めることではないでしょうか。
そして、その後に、彼女が死をもって残そうとしたメッセージが何であったのか、彼女の人生の意味と死の重みを個々の生き方の中で社会に向けて反映していくことが、彼女を自分の中に肯定的な、そして、建設的な形で生かすことに結びつくのではないかと思います。
卒業生の死は、あまりにも理不尽です。順序が違います。感情は、時計の振り子のように、右に左に大きく揺れ動き、彼女の話をするたびに止め処なく涙がこぼれます。
ご家族や親しいお友だちの嘆きは、いかばかりのものでしょう。私には、想像さえできないものです。
ならば、遠くにいる私は、悲しむだけでなく、一緒に過ごした時間を思い出し感謝することで、彼女の人生を祝福しようと思います。彼女は私の心の中ではずっと留学生のまま輝き続けることでしょう。
由佳子さんのご冥福を心からお祈りします。
そして、ご家族の皆様、親しいお友だちに、心穏やかでいられる日が1日も早く来ますよう!