太古との出遭い (1)
投稿日:2010年12月27日
オーストラリアのインド洋に面する西海岸にMargaret Riverという小さな町があります。町そのものはとても小さいのですが、名前は、ワイン産業で世界に知れ渡っています。飛行機と車で、シドニーからだと、ほぼ日本に着いてしまうほどの時間がかかります。シドニーとの時差は、3時間。大きな大陸だということを実感します。
ここで5日間過ごすことになりました。
私が、心配なくシドニーを留守にできるのは、生徒たちがいない12月下旬から1月半ばにかけての間なのですが、ここ数年は、この間に、日本に帰国することなくシドニーで1年後の卒業試験に向けてがんばっている生徒たちがいますので、なかなかシドニーを離れる気持ちにはなりません。しかし、今年は、自分の中でのいろいろな区切りのために、思い切って、普段の環境から離れてみることにしました。
考えてみれば、8年ぶりの休暇となります。この8年は、いったいどこに行ってしまったの、と思うほどに時は速く過ぎていってしまいました。いろいろなことがあったにもかかわらず・・・ いや、様々な感情を伴ういろいろなことがパンパンに詰まっていたからこそ、速いと感じるのかもしれません。
宿泊地として選んだのは、ブッシュ(ユーカリの林)に囲まれた静かなところです。まわりにはカンガルーがたくさんいて、朝夕、いろいろな鳥の鳴き声が聞こえ、コテッジの前の石の入り口には、小鳥が餌をついばみにやってきます。
到着早々、ブッシュの中から、奇妙な鳴き声が聞こえてきました。今まで聞いたことがない音です。近くに行ってみると、なんと、クッカブラ(笑いカワセミ)の赤ちゃんなのです。喉から振り絞るような鳴き声で、怪我でもしているのかと思わせる音です。白くふわふわなむく毛で、そのかわいらしさからは想像もつかない、「グェーグェーグェー」となんとも痛いけで哀れな音を出します。すぐそばの木の枝には、母親鳥がじっと私たちのほうを見ています。赤ちゃんクッカブラは、まだ人間の怖さは知らないのでしょう、一生懸命、発声練習を続けていました。私たちの到着を歓迎する歌だったのかもしれません。
この赤ちゃん鳥、毎日、会いに来てくれました。時々は、お母さんと一緒に合唱もします。お母さん鳥の「カカカカカグルールー」という見事な鳴き声にはどうしてもならず、不協和音しか出せないのですが、それでも、一生懸命、発声練習に励んでいました。5日の間に、「ガガガガ」くらいまでには進歩し、同時に、飛び方にも少しスピードがついてきました。せっかく口にしたこおろぎのような虫を下に落としてしまった時の、えっ、何が起ったの?というような仕草は、なんともかわいいものでした。
笑いカワセミの泣き声には、とてもおもしろい意味があるそうです。何でも笑って済ませてしまえばいい、というのと、笑って済ませるのではなく、自分のことをもうちょっと見つめなさいよ、自分の中をきれいにしなさいよ、というメッセージがこめられているのだそうです。到着早々、赤ちゃんクッカブラの登場ということは、私の中では、きれいに洗い流すことがまだ始まったばかりだよ、ということなのでしょうか。
この地域には、たくさんの洞窟があり、知られているだけでも100を超えるといいます。Lake CoveとJewel Coveに入ってみました。シンボルとしての洞窟には、黄泉の国への入り口、現世と下界をつなぐ通り路、冬眠の場、仙人が瞑想しているところ、暖かな懐、子宮、危険から身を護るところ、といったイメージがあります。光への憧れは、洞窟の闇があるからこそ余計に引き立てられるものかもしれません。天照大神の岩戸隠れのように。
シドニー近郊のジェノラン洞窟と同様、西オーストラリアの洞窟も石灰石からできています。ここの洞窟は100万年ほど前に形成されたもので、世界の洞窟の中では比較的新しいものだということです。
Lake Caveの入り口は、メキシコのユカタン半島のセノテを思わせるようなものでした。深い窪みの下は、周りに繁る木の葉で見えません。でも、ゴヤの魔物の絵のような形がたくさん見える黒っぽい崖の岩模様は、まさに地獄の入り口かのような雰囲気。
そこを通り、中で目の前に展開した光景は、美しさに息を呑むものでした。真っ白な石の殿堂。荘厳でもあり、華美でもあり、水に反映するので、何層にも深みを増し、神秘で華麗な空間を生み出していました。
入り口の窪みは、洞窟の天井が700年ほど前に崩れてできたのだそうですが、中の石の造形が破壊されなかったことは幸いでした。