生と死

投稿日:2010年6月2日

ここ1週間は、言葉で表現することがとても難しいことがたくさんあった週になりました。悲しいとか重いとか沈んだとか、そういった言葉では到底表現することができない複雑な感情に襲われています。先週に引き続き、スワンヒルからのニュースです。20歳になったばかりの若い命が失われました。Nathan Cameron君です。キャメロンさんのお家には、ICETの生徒が何人も、何年間にわたってお世話になりました。MacKillop Collegeで同じ教室内でネイソンと勉強した生徒もたくさんいます。2週間前にフットボールの試合中に心臓麻痺を起こし、その原因はまだ特定できていないのですが、5月29日に生命維持のための装置が外されました。お兄さんのニコラスは、1年間岡山学芸館高等学校に留学したので、岡山周辺では彼のことを覚えてみえる方々も多いことでしょう。その後メルボルン大学で外科医を目指して勉強中です。弟のネイソンは、物造りが得意であり、高校卒業後、宝石のデザインと制作をめざす専門的な訓練を受ける道を選びました。去年の末には、地方のデザイン・コンクールで優勝したと喜びで輝いていました。お母さんのJudyさんは、まったく違う道を歩む二人の息子について、「母親の私は、二人がしたいということを応援するのが役目。大学に行く、行かないに関係なく、二人とも自分のしていることにハッピーだから、これでいいのよね。人生とはそういうものでいいのよね」と、息子たちに何を強いることなく、やりたいことやらせている自分の姿勢は間違っていないのだと確認したいようなニュアンスが混じっっていました。自分のしていることは正しいのよね、と念を押すような口調で言われていました。その言葉がとても印象的であり、息子たちの揺るがない後ろ盾、しっかりとした背骨になっている母親像を見た思いがありました。そのJudyさんの息子の一人が逝ってしまったなんて・・・ 

死は、皮肉なことに、人々をつなげると言います。スワンヒルの町の人々の想いは、ここ2週間この1点に集中し、町全体がショック状態にあることがいろいろな人々から伝えられてきます。ここ2年お留守にしているICETの存在をしっかりとつなげてくださっているのだということがひしひしと感じられます。ICETの存在が人々の心に深く残っていることをこのような形で知らされることに、死の持つ不思議な力を感じると共に、再びICETをスワンヒルの人々とつなげてくれたネイソンの魂に感謝の気持ちでいっぱいです。

~ Celerate: Sharing the Joy of Life with our Family and Friends ~

今週のカードの言葉です。「祝福する:家族や友達と命の喜びを分かち合いましょう」

キリスト教の教会のお葬式で、この言葉が使われる場面に何度か遭遇しました。亡くなったことを嘆くのではなく、その人の生きてきた人生、築いたたくさんの絆、多くの人々の心の中に残るたくさんの美しい場面、残した軌跡、そうしたすべてのことを祝福しましょう、ということです。たまたま、引き当てたカードがこれだったということに、深い意味を感じます。死は、「生」を考えさせるものです。地球上には、65億の人間がいます。短い一生の中で、一人の人間が出会う数は、ごくわずかです。そのわずかな人々と、いがみ合ったり、憎みあったりしないで過ごすことはできないものでしょうか。今隣にいる人が、永遠に存在するわけではありません。今、この瞬間をお互いに最高の方法で分かち合うことができたら、どんなに幸せでしょう。私たちに与えられた今日という日、お互いにcelebrate(祝福)できる日にしたいですね。

このカードが引かれた教室の中でも、この言葉は、とても意味のあるものでした。私たちの毎日はあまりにも忙しく、わけのわからない競争の中に巻き込まれ、大人も子供も、ともすれば結果を出すことだけに注意を奪われがちになります。結果が期待したものでなければ、努力をしたことも、達成したことも価値を置かれなくなり、積まれたものには視点が行きません。まだ足りない、もっと得なければ、と追うことのみに視点が行ってしまいます。そこにあるのは、喜びではなくプレッシャーです。そんなプレッシャーの下では、自分を自由に解放することもできなければ、学習を楽しむこともできなくなります。そんな中で、このcelebrateは、今日したこと、今日できたこと、今日達成したこと、もっと広く言えば、産まれた時から今日までに自分の中に積み上げてきたこと、自分の周りにいるたくさんの人々の存在、自分の存在、そうしたすべてを成してきた自分の努力を褒め、それができたことに感謝し、幸せに思う時間を作り、心で感じる時間を持つ、ということなのだろうと思います。

生徒たちからは、「寝る前に、今日の自分をcelebrateする」「人の成功を褒めてあげる」「歌の歌詞にあるように、あなたといられる毎日が幸せ、だと思う」「今日あったことをできるだけ周りの人々とシェアする」「自分が言うことも他の人が言うことも同じように楽しむ」といった実践案が出ました。高いところに届きたい、もっとたくさんのものを得たいという望みを持つことは大事です。でも、その前に、今ある自分、それを作ってきた過程を通った自分を暖かく評価し、それから、新たな目標、目的に向かったら、正当な自信を自分の中に積み上げていくことが可能となります。

Nathanのお葬式は金曜日と決まりました。ICETのことを考えてくださっているスワンヒルの人々に感謝するためにも、そして、JudyさんとAndrewさんを言葉で慰めることができなくても、抱きしめ、手のぬくもりを伝えることで少しでも心が通じるかもしれないと信じ、2年間スワンヒルでICETの先生としてホストファミリーのキャメロン家と親交を深めたMiss Gと一緒に、スワンヒルに行ってきます。

Nathanの冥福を心から祈ります。そして、キャメロン家に心の平穏が1日も早く訪れますよう。

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