整った国
投稿日:2013年4月16日
「整った国」というのが、日本の印象です。
あえてそんなことを取り上げなくてもわかっていることですが、今回は、なぜか余計にそれを感じます。
清潔、きれい、時間正確、すばらしく豊か、そして、人々が礼儀正しい。駅のエスカレーターの並びを乱す人は一人もいない。何度も何度も、道や行き先を尋ねることがあったのですが、そのたびに、誰もがとても親切に教えてくれます。電車の中では、椅子の背を後ろに倒していいかと、いったい何度尋ねられたでしょう。
外国からの訪問客は、日本のこうした整った環境に非常にびっくりします。新幹線の中で大きなバッグを号車と号車の間にある荷物置きに残しておいても大丈夫であることが到底信じられないというのは、多くの人々から聞きます。
以前に、こんなことがありました。シドニーのハイスクール何校かの校長先生がた十数名を日本にご案内したときのことです。最後いよいよと箱崎でチェックインして成田に向かおうとしていたとき。ある校長先生が、「パスポートが入ったバッグをタクシーに置いてきてしまった!」と悲痛な声をあげました。
よりによってパスポートなんて・・・ なんということ!! どうすればいいのか。
空港の関係者に尋ねたら、タクシー協会のようなところに電話をしてみたらということ。東京にはどのくらいのタクシーがあるか、みなさんはご存知ですか? なんと、4万5千台! 「会社名わからない、色は、黄色だったかな・・・何色だったろう」とちっともおぼつかない。、「そんなことでは、到底探しようがない」と電話の向こうの声。それはそうでしょう。
その校長先生と私は、数日、東京に残ることを覚悟しました。大使館で再発行してもらうしかありません。成田へのバスに乗るために動き始めた他の先生がたにさようならを言っていた時、「このカバンの持ち主はいませんか?」と黒いカバンを頭の上にかかげて大声で叫びながら人ごみを縫ってきた人がいました。校長先生の袖を引っ張ってその方向を示すと、”It’s mine!!” と感動で喉を詰まらせながら、そちらに駆けていかれました。
高速に出てしまってから、助手席の足元にカバンがあることに気づき、最初の出口で降りて戻ってきてくださったとのこと。その運転手さんの誠意に応えられるものは何でしょう? 運転手さんは、校長先生がお礼に出したお金は受け取られませんでした。ガソリン代だってかかっているでしょうに。
おそらくその運転手さんの誠意に応えられるのは、外国からのゲストが日本に対して美しいイメージを抱くようになることなのでしょう。その校長先生が、日本と日本人に対して絶対的な信奉を抱いていることは、言うまでもありません。その運転手さんのお名前はわかりません。でも、その行為は、私の中にも決して忘れることがないものとして残っています。誇りと一緒に。
そんな国から留学してきている生徒たちが、「日本はいい国」「便利な国」「日本に生まれてよかった」と思うのは、当然ですね。
そうした日本人の気質がどこからできてきたものかを「文化論」として 論議しているつもりでいたら、ある学者さんからとても意外な見解が出てきました。津波の後で、世界中に感動を与えた日本人のあのすばらしい資質は、文化的なものではなく、必ず政府が面倒をみてくれるという安心感、安定感から来ているものだ、と。国民が必ず守ってもらえるという保証があるからなのだ、と。それが証拠に、バーゲンセールは誰も列を作って待つ人などいないではないか、と。
はああ、なるほど、と思いながら、再び日本人の資質がどこから来ているものかを考えています。